雪の足跡《Berry's cafe版》
そのメールに返信を打つ。打ったところで八木橋にメールが届くわけじゃない。携帯は雪に埋もれてるし、新しく購入するにもショップはお正月休みで開いてないだろうし、仮に開いていても麓のショップまで行く暇もないだろうし。
『本文:ごめんなさい』
ただ一言だけ打って送信ボタンを押す。届かないメール。でも一言詫びたから、ちょっとだけ罪悪感が薄れた。
再び仕事に戻る。一人でカチカチとマウスを鳴らしながら患者さん一人一人のカルテをチェックする。しばらくしてお昼になり、お節の詰まったお弁当箱を開けて食べ始めた。すると携帯が鳴った。メールの着信音。口を動かしながら、携帯を手にする。画面に浮かぶタイトルは『RE:八木橋岳志』、発信元は多分、八木橋のアドレス
「んっ?、ん……?」
口の中のお節を飲み込んで、深呼吸してからボタンを押した。
『本文:アホ』
たった一言、アホ。八木橋の口癖。間違いなく八木橋からのメールだと確信した。じゃあ、あの雪の中、携帯を探したってこと?
「アホ……」
思わずニンマリした。と同時に恥ずかしくなった。届かないと思ってメールしたのに。素直に謝った一言。
『本文:アホって何よ、アホ』
つい、突っぱねてしまう。送信ボタンを押して再びお弁当のお節を口に入れる。すぐにメールが返って来た。
『本文:“アホって何よ、アホ”、って何だよアホ!』