雪の足跡《Berry's cafe版》
母と後片付けをする。母は、明日も仕事があるんだから先にお風呂入って休むよう言ってくれたけど、少しだけ、と言ってお皿や湯呑みをキッチンに下げた。
「母さん」
なあに?、とテーブルを拭きながら母が答える。
「嫌じゃないの、スキー」
そうね、寒いのは好きじゃないけどエビチリ美味しそうだしみんなが行くって楽しそうだったし、と笑った。
「それにね」
「それに?」
「こうして父さんの前で皆で飲んで喋って出た話だから、父さんが行けよって言ってる気がしてね」
母は片付けの手を止めて仏壇の父の写真を見ている。
「何年振りかしらねえ……」
ユキが小学校に上がる前だから20年以上ね、滑れるかしら、と母は笑った。
お風呂に入り、自分の体を眺める。まだ消えていない八木橋の付けた跡。週末にはあのスキー場に行ける。八木橋とも会えるかもしれない。そう想像しただけで胸が高鳴ってしまう。でもその一方で、合コンのことや携帯に保存されていた女の子の画像も一緒に思い出されて苦しくなる。やっぱり私とのことは遊び目的だったんだろうか、その他大勢の一人なんだろうか、って。『今度スキーに“行く”ときは』の八木橋の台詞。もう来るなと言ってる気もした。私が行ったら迷惑な顔をするだろうか、それとも笑ってからかってくれるだろうか、期待と不安が入り混じり胸が締め付けられた。
スクールからの返信メールは翌日に来た。グループにインストラクターを一人付けます、レベルに差がある場合は他のレベル別グループに振り分けることも出来るので早めに連絡くださいという内容だった。叔母達は全くの初心者、叔父と母は経験者だけど数十年前にやったきり。でも、何より一緒に楽しみたいだろうし、レベルに差はあったけどそのままインストラクターを派遣してもらおうと思った。