雪の足跡《Berry's cafe版》
 私はその急斜面を下り始めた。コブは滑れない訳じゃない。嫌いじゃない。ただ、筋力を使うから何本か滑ると集中力が切れてスキーを楽しめなくなるから選ばないだけ。ここに来たのだってゲレンデから見える湖面が綺麗だっていう口コミを見て選んだのに。


「ふんっ」


 コブの腹で板先を変える。速度を抑える。ほらね、コブに集中して景色が楽しめない。申し訳ないことして悪いって思って顔色伺ってたら急に馬鹿にしたように笑って。性格悪い!

 急斜面のコブを終えてコースの脇に止まる。どれだけの斜面を下りたのか確認しようと見上げると、真っ赤なウェアの彼が飄々と滑っていた。コブって力強く足をバネにして下りて来る人が多いのに、全くそれを見せないブレない滑り。


「……」


 私は息を止めた。無意識に止めていた。雪原の中に小さな赤い点がゆっくりと柔らかに下りて来る。目が離せない……。綺麗な滑り方だった。

 その赤い点が段々と大きくなり、私の前でエッジを立てて止まる。


「……古い」
「え?」


 八木橋さんは顎をしゃくる。どうやら私のことを差してるようだった。


「滑りが古い」


 八木橋さんはまた肩を震わせて笑う。


「板は新品なのに勿体ない……ダサい滑り方」
「ダ……サい?」


 私は再び頭に血が上った。彼の存在を無視してリフトに向かった。滑りと性格は比例しない。一瞬でも見惚れた私が馬鹿だった。再びロマンスリフトに乗る。コブを下りる。八木橋さんも同じく私の後を滑る。そんなことを3本繰り返したときだった。

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