雪の足跡《Berry's cafe版》

 レッスン終了時刻になり、一人で麓のレストハウス前まで行く。インストラクターや生徒でごった返した中に叔母達と酒井さんを見つけた。覚束ない足取りでゼッケンを脱ごうとして叔母の一人がよろけた。酒井さんは無理せず板を外してから脱いで後でスクール小屋までお持ちくださいと声を掛けている。そこで酒井さんが私に気付き、彼はゼッケン急がなくていいからね、と言った。私は叔母達がお世話になったお礼を言うと酒井さんは、後でね、と声を掛けてスクール小屋に向かって行った。

 直に母と叔父の一行も降りてきた。ゼッケンを脱ぎ、八木橋に渡している。小学生の男の子からゼッケンを受け取った八木橋は男の子の頭をグリグリと撫で、頑張ったな、と笑顔で褒めた。ふと思い出す、頭を撫でるという行為。私にもしてくれた。リフトの上で泣いた私を慰めるように帽子の上から撫でた。その、誰にでもしている行為に寂しくなる。あの時、リフトを降りた後に板を挟むように近付いた。すごく近くて私は焦って、あの瞬間に八木橋を異性として意識した。いや、既に意識していたと気付いた。あんな風にゴーグル越しに見つめるようにするのも八木橋にとっては日常茶飯事なのかもしれない……。


「ユキ……さん」


 八木橋に声を掛けられた。付け足すようなさん付け。


「ちゃんと複数で来たのか」
「そうよ。でもお目当ての合コン出来なくて悪かったわね」
「ア……」


 八木橋は母や叔父を近くにして、アホ、と言い損ねると咳ばらいをした。


「誰がお前なんかと……」


 母や叔父に聞こえないよう、八木橋はボソリと言った。


「そうよね? ヤギは元カノみたいな若い子が好みでしょ。それとも菜々子ちゃんみたいなロリコン系??」
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