雪の足跡《Berry's cafe版》
「八木橋さん、お歳は?」
「29です」
「ご家族は?」
「父、母、弟が千葉にいます」
「お住まいは?」
「ホテルの宿舎に入ってます」
「独身?」
「はい」
質問責めに会う八木橋。たじたじになりながらも真面目に答える八木橋の顔を私は眺めていた。
「じゃあ、彼女は?」
一瞬、八木橋がこちらを見た。目が合う。でもすぐに逸らされた。
「……いません」
私は手元のグラスを一気に飲み干した。勿論私は彼女でもなんでもない。分かってるけど目の前でハッキリと言われてショックだった。そんな私を余所に、叔母達は質問を続ける。
「じゃあどんな女性がお好みなの?」
「この通りスキー馬鹿なものですから、それを理解してくれる方が理想です」
スキー馬鹿。私の父をスキー馬鹿と笑った癖に自分のことも同じ言葉で修飾した。その後は何故スキーを初めて何故ここで働いてるのかを尋ねられていた。山岳好きな親の影響でスキーを始め、大学に入ってからは本格的に滑るようになり、技術選で入賞した、そして大学を出てこのホテルに就職した、と八木橋は話す。
「じゃあ、板の開発、というのは?」
不思議に思ったのか母が質問した。
「上位入賞してからは幾つかの会社から声を掛けていただいてまして。本業はインストラクターですからアルバイトのようなものです」
ホテルにはちゃんと許可をいただいてます、レンタルスキーを購入するときに割引も効きますしホテルにもメリットはありますし、と八木橋は付け加えた。