雪の足跡《Berry's cafe版》

「何故このホテルに?」
「スキーを滑ることだけで飯を食っていくのは非常に難しい世界です。就職活動中、ちょうどこちらのホテルで正社員枠でインストラクターを募集していたものですから」
「インストラクターの皆さんって社員じゃないの?」
「ほとんどがアルバイトです。大学生は勿論、地元の社会人も、週末だけですけど。リフトのシーズンパスが貸与されるのでそれを目当てにバイトされるようです」


 八木橋は自分の仕事を雄弁に話した。さっきまで質問責めにされてたじたじになっていたのに、スキーの話になると目を輝かせて喋る。しばらくして八木橋は、そろそろ冷えたと思います、と言って立ち上がり窓を開けた。ひんやりとした空気が部屋に入り、ほてった頬を撫でる。八木橋は一升瓶を片手で持ちもう一方で雪を払い詮を開けた。私は部屋の隅にあるミニ冷蔵庫の上にあるグラスを取りに行く。それに八木橋が酒を注ぎ、再び乾杯する。芳醇な香りと濃厚な味の酒だった。軽やかなビールの後だけに余計にそう感じたのかもしれない。皆が口々に、濃い、腹に染み渡る、と感想を言う。


「もし軽いのがお好みならロックにすると飲みやすいです」


 と八木橋は言った。私はミニコンビニに氷を買いに行こうと立ち上がる。


.
< 80 / 412 >

この作品をシェア

pagetop