雪の足跡《Berry's cafe版》
玄関に荷物を下ろしてまずは和室に向かう。線香に火を点け、手を合わせて、無事に帰宅したことを父に伝える。フシダラな娘はスキー馬鹿にキスされて来ました、と心の中で報告する。遺影の父は勿論ただただ笑っている。
「ユキ、お線香上げるならこれも一緒に」
玄関に降ろした荷物の中から母が手にして来たのは、あの一升瓶だった。飲み切れず3分1程残っている。それを持ち帰ってきた。母はキッチンに行き、生前父が好んで使っていたガラスの猪口を棚から出してその酒を注いだ。そして私に手渡す。
「お父さん喜ぶと思うから」
日本酒が好きだった父。だから母は父に飲ませようと注いだのだと思った。母は、ユキも飲むでしょ?、と言いながらお揃いの猪口に酒を注いでいる。私は仏壇に酒を上げて再び手を合わせた。母は、美味しかったわね、これ、酒屋さんに寄って買ってくれば良かったわね、と言った。そうだね、と返事をする。私もキッチンに行き、冷蔵庫からチーズを出した。簡単に水洗いした野菜も盛りつけて、テーブルについた。猪口で乾杯をする。
「お父さん、こういう濃いお酒、好きだった……。懐かしい」
一口、その酒を飲むと母は猪口を両手で持ち、懐かしそうに眺めている。
「懐かしい……?」
「一升瓶を抱えて入ってきたでしょ? なんかね、若い頃のお父さんを見てるようでね」
「ヤギ……橋さん?」
私は付け足すようにさん付けをした。一升瓶を抱えてやって来た八木橋。