雪の足跡《Berry's cafe版》
「全然似てないよ、顔も体格も……」
性格も、と言おうとして辞めた。そりゃあ父さんは今の人みたいに背はないし、八木橋さん程ハンサムでもないし、と母は言う。
「ハ、ハンサム……」
「あ、今はイケメンって言うのよね?」
「イ……」
昨夜の八木橋の顔が浮かぶ。目の前に迫った八木橋の顔。腕を押さえ付けられて、ジャケットから男の匂いがして。
「イケメン? そう??」
私は恥ずかしくて目の前にあった猪口を一気飲みした。母さん視力悪くなったんじゃない?、と言いながら手酌で注ぎ、再び飲み干す。でもその冷たい猪口の感触に八木橋の冷えた唇を思い出してしまった。顔が熱くなる。
「ユキ?」
母が私の顔をのぞき込む。
「な、何?」
「八木橋さんと何かあったの?」
「ヤギ……橋さんとは何かあるほど知り合いじゃないから」
「そう? 八木橋さんがスキーの話をしてくださったのに、ユキは妹達と酒井さんの話に加わって。いつものユキならかじり付くように聞くのに」
母の猪口が空になり、私は母に酌をした。八木橋は技術選予選に出るとか、スキーパトロールの資格を取るとか、母は八木橋の話を要約して話した。何故か嬉しそうに……。
「一升瓶で皆に注ぎ回りながらスキーを真面目に語るところ、お父さん思い出したわ」