雪の足跡《Berry's cafe版》

 携帯が壊れたと嘘をついて近付いてきた八木橋。避妊具を持って部屋に乗り込んできた八木橋。私と寝た後に合コンに参加した八木橋。煩いハエを追い払うかのようにキスをした八木橋。


「あんな男と父さんを一緒にしないでっ!!」


 私は立ち上がってテーブルを叩いていた。


「ユキ……?」


 母が心配そうに私を見上げている。


「あ……な、何でもない。父さんは父さんだから……」


 バツが悪くて猪口の酒を飲み干す。アルコール度数も高いのか、疲れているのか、クラクラする。ちょうどその時、私の携帯が鳴った。ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。


「ヤ……」


 多分、きっと、絶対、今の私が出たら悪態をつく。出ようか出るまいか悩む。でも母の手前、相手が誰であれ居留守を使うのは嫌だったし、何より、聞きたい、声……。

 私は通話ボタンを押した。


「もしもし」
「今どこだよ」
「自宅」
「アホ」
「ア……」


 アホって何よ!、と言おうとして辞めた。母を横目にダイニングを出て玄関に行く。
< 89 / 412 >

この作品をシェア

pagetop