雪の足跡《Berry's cafe版》
携帯が壊れたと嘘をついて近付いてきた八木橋。避妊具を持って部屋に乗り込んできた八木橋。私と寝た後に合コンに参加した八木橋。煩いハエを追い払うかのようにキスをした八木橋。
「あんな男と父さんを一緒にしないでっ!!」
私は立ち上がってテーブルを叩いていた。
「ユキ……?」
母が心配そうに私を見上げている。
「あ……な、何でもない。父さんは父さんだから……」
バツが悪くて猪口の酒を飲み干す。アルコール度数も高いのか、疲れているのか、クラクラする。ちょうどその時、私の携帯が鳴った。ポケットから携帯を取り出し、画面を見る。
「ヤ……」
多分、きっと、絶対、今の私が出たら悪態をつく。出ようか出るまいか悩む。でも母の手前、相手が誰であれ居留守を使うのは嫌だったし、何より、聞きたい、声……。
私は通話ボタンを押した。
「もしもし」
「今どこだよ」
「自宅」
「アホ」
「ア……」
アホって何よ!、と言おうとして辞めた。母を横目にダイニングを出て玄関に行く。