雪の足跡《Berry's cafe版》
「今年は県予選からだから忙しいな」
「忙しい?」
「県予選、地方ブロック予選、そのあとに全国予選決勝だから」
「ふうん……」
三度、沈黙する。
「で、ヤギの話は?」
「ああ……」
八木橋は少し間を置いた。
「……返すよ」
「何を?」
「レッスン代。ユキに払わせた個人レッスン代」
そんなもの……。
「いらない」
「返す」
「いらないっ」
「振り込むから口座番号教えろよ」
「口座番号? 新手のオレオレ詐欺??」
「はあ?」
「勝手に振り込んで、貸してやったから3倍にして返せ、とか言うんでしょ!」
あの時、八木橋が声を掛けてくれた。今、思い返せばあの嘘がなかったら八木橋と知り合うことはなかった。こうして思いを寄せることもなかった。その出来事すら帳消しにすると言われた気がした。