雪の足跡《Berry's cafe版》
「ちゃんとケジメつけた方がいいだろ?」
「ケ……」
「いつまでも気になってしょうがねえだろ」
八木橋は、もう私には関わりたくないってことだと思った。ただレッスン代を返したくてメールしたんだと思った。
「そうねっ、ちゃんと精算してよ。ヤギみたいな詐欺師にはもう関わりたくないから」
「俺だってユキみたいなメールの返信も出来ないアホには関わりたくねえし」
「耳揃えてキッチリ返してよね!」
「たかが16000円、当たり前だろ」
「取り立てに行くから用意しといてよっ!、じゃ!!」
ムカついてボタンを押して通話を切る。ダイニングに戻り、猪口の酒を飲み干して再び注ぐ。もういい、八木橋なんて、もう忘れてしまえ、ゲレンデの雪に惑わされてるだけなんだ、ちょっと格好良く滑ってた八木橋に錯覚を起こしただけなんだと自分に言い聞かせる。お金を返してもらったら金輪際、八木橋のヤの字も忘れてやる!、そう思った。
「ユキ、飲み過ぎよ」
「明日も休みだもん、構わないっ」
母に牽制されるけど手酌で地酒を飲みまくる。3分の1程あった筈の酒はあっという間に底をついた。
「ユキ、ユキ? ちょっと……」
「気持ち悪い……寝る。母さんおやすみなさい……」
「ユキ、一升瓶……? ユ……」
足元がフラフラする。母の言葉も途切れ途切れで、一升瓶、一升瓶、と私の名が一升瓶であるかのように聞こえた。私は階段を上がり部屋のベッドに潜り込む。そして母が一升瓶と言ってた意味を翌朝に理解した。服を着たまま私は一升瓶を抱いて寝ていたのだった。