ポケットダーリン
現実逃避
「ゆうりは何卸す?」
その言葉で、一気に現実に引き戻された。
「…そんなにお金持ってないよ。来るつもり無かったし」
本当は、店に来ることになるのは分かっていた。
でも、そう付け加えておかないと、あたしにはもう価値が無くなったと思われてしまう。
お金が無いと、もう叶人の傍にはいられない。
「未収で大丈夫だよ。ゆうりのことは俺、信じてるからさ。…だから、ヴーヴ2本とオリシャンとラーセン、あとドンペリも良い?」
容易く言ってのける目の前の人を、これほど遠く感じたことはない。
未収というのは、いわゆるツケのことだ。
締め日までには必ず支払わなければならない。
もしも客が未収を払わなければ、ホスト側に罰金がつく。
今までも、未収は全額きっちりと払ってきた。
でも、今回の額は正直予想していなかった。
締め日でもきついが、今回は後に締め日も残っている。
締め日に遣う金額のことも頭に入れておかねばならない。
…どう考えても無理だ。今のあたしにはそんな額、稼げる程売れてはいない。
風俗で働いてるからって、誰もが大金を手に入れられるわけじゃ、ないんだよ…。