おかしな国のアリス
ビルが指を鳴らすと空中からトランプが形成される。
「え…」
もう、どこをつっこめばいいのかな…
…じゃなくて!
ビルはその形成されたトランプ5枚を手に取り
「ロイヤルストレートフラッシュです」
空中に投げ捨てた。
すると。
「うふふ…さぁ、行きなさい。私の僕…」
濁った青い目。
黒いスーツ。
胸ポケットにかかったサングラス。
…間違いない。
「トランプ兵…!」
「うふふ」
ビルが、5人の後ろで不敵に笑った。
私の後ろでは、猫がその笑みを睨んでいる。
「てめぇ…まじで根性腐ってんな…」
「お褒めの言葉、光栄です。」
うふふ、と笑って、ビルは身を翻した。
「私、そういう暴力とか趣味じゃないので…失礼しますね」
それでは、皆様ご機嫌よう…
そう言い残して、ビルは暗闇にとけていった。

残ったのは、私と猫とトランプ兵。
「おい、アリス」
「な…なに?」
すると猫が、突然私の腕を掴んで強くひっぱる。
「逃げんぞ」
「え?…きゃあ!」
ひっぱる力を突然強くされて、私はバランスを崩し引きずられるように早歩き。
「…逃がしません」
当然、それをトランプ兵が見送ってくれる訳はない。
「ね…猫」
「情けねぇ声出すなよ。アイツらはノロマだから追いつきゃしねーよ。」
足音もたてずに猫は歩く。
さすがは猫?
「それに」
「?」
猫は歩く速度を若干上げながら言う。
「アイツら、眼も鼻も耳も悪いし。」
「…なるほど」
五感のほとんどが失われてるじゃん…
意外と可哀想かも。
猫がちらりと後ろを見る。
私もつられて後ろに目を向ける。
トランプ兵は、遠くでのろのろと歩き、床を這い、いろんな隙間を覗いたりしていた。
「…」
「もう大丈夫だろ…」
猫は速度を落とす。
私の腕は掴んだままだ。
「さ…どうする?」
「え?」
「この角曲がったらよ、女王の居る部屋だと思うからさ。」
「…はい!?」
そんな唐突に!!
っていうかまるっきり違うところに案内されてたの!?
…でも、怖がってちゃだめだ。
白兎は、もっと怖い思いをしてるんだ…
「行くか?」
「…うん…行こう」
そう思って、私は強くうなずいた。
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