おかしな国のアリス
「こっち」
ぐい
「次こっち」
ぐいぐい
「そいで…」

「待った!!」
「は?」
「さっきから、ぐいぐいぐいぐい…!
口で言えばいいでしょ!」
猫はきょとんとして、手を離した。
「じゃあ、勝手にどっか行ったり、後ろのそいつに捕まったりするなよ?」
「しません」
そのまままた、猫はとことこ歩く。
「そろそろだな」
くんくん、鼻を鳴らして猫。
後ろのトランプ兵とは全然違うなぁ、と思いながら、私は猫の後ろをただついて行く。
そして、何度目かの角をまがると
『アリス!』
大勢に呼ばれた。
声のトーンこそ違えど、みんな同じような声だった。
「……」
「……」
「……」
猫もトランプ兵も、もちろん私も絶句した。
ひとつのおおきな牢屋に、白兎がたくさんいたんだから、当たり前だ。
私はこんなにたくさんの白兎を見たことない。
…いや、他の誰も見たことないだろう。
「ど…どういうことよ…これ」
「こりゃ困ったな…匂いはみんな違うが…強すぎて本物の白兎匂いがかき消されてる。」
「じゃあ…」
「あんまり俺の鼻は頼りにできねぇってこった。」
そんな…
そしたらどうすればいいの?
トランプ兵はもちろんあてにならないし…
私だって、白兎を見抜く方法は知らない。
二人だけの合言葉があるわけもない。
「どうするのよ…」
「アリス」
久しぶりに、トランプ兵が声を出した。
「私をニセモノだと見分けられたのですから、きっと大丈夫です。」
にこり、笑った。
「…」
頑張るしか、ないか…。
私は白兎の集団を見ながら、溜め息をもらした。
< 43 / 60 >

この作品をシェア

pagetop