おかしな国のアリス
「…さ、戯れはここまでにして。」
ピリピリした空気を無視して、白兎が女王様にほほ笑む。
「僕らを捕らえて、住人を苦しめ殺すのを見せつけようとお考えなのでしょうが…」
女王様がわずかに表情を変える。
すると、白兎がするっとトランプ兵の腕を抜けた。
「捕まるのは嫌いなので…すみません」
「っ…何をしているの!?使えない!」
女王様は立ち上がると、手に握っていたトランプをすべて空中に放り投げた。
トランプは、重力に従って地面に散らばる。
それと同時に、私の腕の拘束も解けた。
「…どうして」
「どうして?
…おやおや…あなたはご自分の部下の事もご存じではないのですか?」
やれやれ、と言った感じで白兎が肩をすくめる。
訳も分からぬまま崩れ落ちる女王様。
薔薇のように、ドレスが床に咲いた。
「敵である僕らのことも、全く調べていらっしゃらないのですか?
…僕らは、時間を止めたきゃいつでも止められるんだよ」
白兎は懐中時計を開いたり閉じたり手遊びする。
顔面蒼白の女王様に私が話しかける。
「じ…女王、様」
すると、今にも泣きそうな瞳をこちらに向けた。
「…もう、やめにしましょう?
このまま、正しいお話をすればいいじゃない。
それに、こうなったのはあなたのせいなんだから…私たちに八つ当たりしないで?」
「あ…りす…」
女王様は、うっ…と顔をゆがめ、すぐにその顔を、絹の手袋をはめた手のひらで隠した。
「…ね、女王様。
もう一度やりなおしましょう?
猫にも逃げないように言ってさ。」
女王様と一緒の目線になるようにしゃがむ。
女王様が顔を上げると、涙をたくさんためた瞳が私を映した。
「アリス…」
「…ん?」
「それは無理よ」

一瞬衝撃があって。
下腹部に、熱。熱い。
トクトク…と
心臓が、お腹にあるみたい。
「アリス!!」
目の前に、笑顔の女王様。
ああ、綺麗な人。
「アリス!!」
白兎…が
よ ん


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