【短】愛のひかり
≪1≫
かごの鳥を逃がしたのは
誰だったのだろう。
そんなことを
ずっとずっと考えてきた。
「見て。紫乃(しの)先生がまた載ってるよ」
料理教室の生徒のひとりが、広げた雑誌をテーブルに置いた。
“また”と言うには少し古い、3ヶ月前のものだった。
他の生徒たちも雑誌の周りに集まって、
「あ、ほんとだ」とか、
「やっぱり美人ねぇ」なんて、口々につぶやく。
私はオーブンの中で焼けていくパエリアから目をそらし、彼女たちに言った。
「そんなに見ないで。恥ずかしいじゃない」
「でも自分たちの先生が載ってるんだもん。やっぱり見たいですよ」
彼女らはこうして雑誌で私を見ることを、純粋に喜んでくれている。
それが分かるから、私も嫌な気はしなかった。
主婦業のかたわら自宅で料理教室を開いて、3年。
いつの間にか私は“主婦の憧れの存在”と呼ばれるようになり、
誌面に顔を出す機会も増えた。
だけどそれは決して、私だけの力じゃなかったと思う。
「紫乃先生って、美人で才能があって、しかも旦那様は注目の若手議員で。
ほんとに恵まれてますよね」
夫――源光のことを話すとき、人々は私を世界一の幸せ者のように言ってくれる。
幸福は目に見えるもの、
みんなそう信じている。