【短】愛のひかり
彼の行為は私にとって裏切りでしかなく、それからしばらくは家の中でも彼を避け続けた。
突然よそよそしくなった私たちを見て、彼のお父さんは心配しつつ苦笑いしていた。
きっと、すべてを察していたのだろう。
彼が私を引き取った、本当の意味。
知らなかったのは、私だけだったのだ。
あの出来事から4日目の夜。
彼が帰ってこなかった。
ひとり分の椅子が空いた食卓で、私は彼のお父さんに尋ねた。
「お兄ちゃんは?」
「友達と遊びに行くって言ってたよ」
「そう……」
気にする必要なんかない。
お兄ちゃんなんか知らない。
そう思う反面、心にすきま風が入ったような寂しさが、ふつふつとあふれ出す。
喉を通らない食事を終え、部屋に戻ると大きな鏡に自分を映してみた。
彼好みの女が、そこにいた。
手入れされた長い黒髪や、消えてしまいそうなほど白い肌。
そして、彼が触れた唇――。
もしも今
彼が別の女性の唇を奪っているとしたら?
そんな考えが頭をもたげた瞬間、うずくような痛みが胸に走った。
それは、生まれて初めて知る得体の知れない感情だった。