【短】愛のひかり
その夜、彼はいつも以上に優しく私を抱いてくれた。



「愛してるよ、紫乃」


そんなささやきに、熱い口づけで返事をする。


強引に体を奪われ拗ねて泣いていた18歳の私は、もういない。

奪わなくても、私はすっかり彼のものだった。
 


真新しいシーツの上で波の模様を描く私の髪を、彼はいつまでも撫でていた。



「ねえ、光はどんな家庭にしたいと思ってる?」


ふとたずねると、彼の手が止まった。


「そうだな。俺がいて紫乃がいる、それで充分だよ」


「それじゃ今までと変わらないじゃない」


「変わらないことは、それほど悪いことじゃないよ?」



彼は再び私の髪を、指で梳き始めた。



「俺はこれまでたくさんの別れを経験してきたから。
紫乃にだけは、変わらずそばにいてほしい。
それが何よりの願いなんだ」



彼の口からそんな言葉が出るなんて、不思議でしかたなかった。


私が彼のそばを離れるなど、あるはずがないのに。



「……光のお母さんって、どんな人だったの?」



別れ、と聞いて頭に浮かんだ人のことを思い切って尋ねてみた。


彼は困ったように笑い、私から目をそらした。

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