【短】愛のひかり

「俺が幼いときに死んだよ。
二人目の母さんは病気で療養していて、長いこと会っていない」



“二人目の母さん”のことを彼の口から聞いたのは、このときが初めてで、そして最後。



まるですでに死んだ人のことを語っているようだ、と思った。


二度と会えない――だからこそ乱暴なほど鮮明に胸の中で生き続ける、

そんな人を想う瞳だった。



「光」


「……ん?」


現実の外から戻ってきたような顔で、彼は返事した。



「絶対に、幸せな家庭を作ろうね。私と光で……どこよりも幸せな家庭を」








彼の実家を出て始めた新婚生活。



3LDKの新築マンションは、買い揃えた家具を一式置いてもまだ広々としていた。


飽きが来ないように、という理由で、調度品はすべて白で統一した。



クラシック調の柱時計は、彼の実家から持ってきた物だ。


生まれた日にお父さんが買ってくれたらしく、思い出深いので一緒に連れてきた。
 


何もかも新しいこの部屋で、彼の時計だけが少し不自然に浮いている。


けれど時間が経てばなじんでゆくのだろう。


それを想像すると、幸せで胸がいっぱいになった。


< 16 / 60 >

この作品をシェア

pagetop