【短】愛のひかり
「俺が幼いときに死んだよ。
二人目の母さんは病気で療養していて、長いこと会っていない」
“二人目の母さん”のことを彼の口から聞いたのは、このときが初めてで、そして最後。
まるですでに死んだ人のことを語っているようだ、と思った。
二度と会えない――だからこそ乱暴なほど鮮明に胸の中で生き続ける、
そんな人を想う瞳だった。
「光」
「……ん?」
現実の外から戻ってきたような顔で、彼は返事した。
「絶対に、幸せな家庭を作ろうね。私と光で……どこよりも幸せな家庭を」
彼の実家を出て始めた新婚生活。
3LDKの新築マンションは、買い揃えた家具を一式置いてもまだ広々としていた。
飽きが来ないように、という理由で、調度品はすべて白で統一した。
クラシック調の柱時計は、彼の実家から持ってきた物だ。
生まれた日にお父さんが買ってくれたらしく、思い出深いので一緒に連れてきた。
何もかも新しいこの部屋で、彼の時計だけが少し不自然に浮いている。
けれど時間が経てばなじんでゆくのだろう。
それを想像すると、幸せで胸がいっぱいになった。