【短】愛のひかり
政治家である父の秘書を勤める彼は、時々テレビなどでもその姿を目にすることがある。


お義父さんの後ろでちらりと映るだけなのだけど、その一瞬でも彼の魅力は見る人を惹きつけるのだ。



それに主婦仲間の何人かはうちに遊びに来たこともあり、実物の彼に会っている。


誰もが、彼の虜になった。


「光さんって二枚目なのに全然気取らない人よね」
 

感動したように彼女らは言った。



気取らない人。

たしかにそうだ。


プライベートの彼は品の良さを保ちながらも、わざとやんちゃな振る舞いをして、他人の心を解いていく。


それは本当に育ちのいい、彼みたいな人だからできること。
 


打ち解けた様子で相手の名前を呼んだり、さりげなく褒めたり、顔を見合わせて笑ったり。


そんな仕草のひとつひとつが女の心にどう作用するか、彼は自覚しているのだろうか。



「ああ。本当に紫乃さんが羨ましいわ」
 

うっとりとした表情でくり返す彼女たちの、羨望のまなざしを私は一身に浴びている。
 


そう、私は幸せ者なんだ。



彼を愛する女性はきっとたくさんいる。


だけど彼の妻は、世界で私ひとりだけ。


誰よりも彼に愛されているのは、私。
 


――だから我慢しなければ、と思った。



実は昨夜から彼が帰ってきていないことも、

携帯が繋がらないことも。






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