【短】愛のひかり
友人を通して知り合った女性と関係を持ってしまったこと。
その女性には婚約者がいたこと。
さらに彼女の父親が、お義父さんの政敵にあたる人物だったということ。
告白は、やがて懺悔へと変わっていった。
「だから……オレが神戸に行くのは、これ以上スキャンダルを大きくしないためなんだ」
固くまぶたを閉じて彼は言う。
私はあまりの出来事に、ただただ泣くしかなかった。
「ごめん。君みたいな妻がいながら、最低な男だよな」
止まらない私の涙を、彼は親指で拭っていく。
「だけど信じてほしいんだ。オレが心から愛しているのは、紫乃、君だけだから――」
“だから”何だと言うのだろう?
だから見捨てないで?
だから待ち続けてほしい?
彼は何もわかっていない。
そんな選択の余地もないほど、私には最初から光しかいないのに。
涙を拭う彼の指から逃げるように、私は顔を背けた。
他の女の人に触れた指で、優しくしてほしくない。
こんなひどい裏切りは許せない。
いっそのこと彼の手を払いのけてしまいたい。
だけど、できない。
私には……彼だけが全ての私には。
心を縛り付けるほどの愛は、もはや喜びではなく呪縛だとわかっていても、
私は彼を振り払うことができなかった。
足の力が抜けて立つことすらできなくなった私を、彼は軽々と抱き上げベッドまで連れて行った。
夕闇が、寝室を覆いつくしていた。
年月をかけ何もかもを一から教え込まれたこの体は、
絶望のふちにいる今でさえ彼の望む反応を返す。
その指、唇、息遣い。
私の名前を呼ぶ声。
すべてが愛しく、いっそ憎いほどだった。