【短】愛のひかり
明日が別れの日だというのなら、そんな日は永久に来なければいい。


一晩中そう願い続けたけれど、太陽は聞き入れてはくれなかった。


少しずつ白んでいく空を窓越しに見ながら、眠ることも起き上がることもできずにいた。
 


ふっと、私を抱きしめる彼の腕が解けた。


「もう……行くの? 出発は夜の便でしょう?」


「ごめん。その前に片付けておかなくちゃいけない仕事が、山積みなんだ」
 

複雑な表情でシャツに袖を通す彼。

この一晩だけで一生分の“ごめん”を聞いた気がする。
 

私は散らかった洋服を拾い、ベッドの上で体を起こした。


彼はもう忙しそうに出発の準備を始めている。

普段の出勤用より大きな鞄が目に入っただけで、気が狂いそうになった。
 


もしも今……、今ここで時が止まってくれれば。

この部屋から扉も窓も消えて、彼を閉じ込めてしまえれば。
 

馬鹿げた妄想だとはわかっていても、願わずにはいられない。


お願い、光。

お願いよ。
お願いだから――


「……行かないで」
 

抑えきれずこぼした言葉が、彼の顔を硬直させた。


「行かないで、光」


「紫乃……。わかってくれ」


彼の熱い手に両肩をつかまれ、私は激しく首を振る。
 


彼のいない世界なんて想像もつかなかった。


私の道しるべとも言うべき、一筋のひかり。

それを失ってどう生きろというのだろう。


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