【短】愛のひかり
新しいレシピを考えるときは、完成にたどり着くまで試行錯誤の繰り返し。
そしてやっと満足のいくものが作れたときは、体中が達成感に満たされる。
マニュアル通りに作ったときには得られない喜びが、そこにはあった。
「でもさあ、紫乃さんの旦那さんって、例のスキャンダルで海外に行ってるんでしょ?
いくら料理が上達しても、食べてくれる人がいないのは寂しいわよね」
時々、そんな風に噂されているのが耳に入った。
気にならないといえば嘘になる。
だけどくじけてしまってはいけないと、自分を奮い立たせた。
彼は必ず私のもとに帰ってくる。
同じ時間を待つのなら、少しでも笑顔で過ごしていたい。
彼のことだけを想い、耐えて、耐えて、日々は過ぎていった。
だから、あの電話がかかってきたときは――
これは神様からのご褒美に違いないと、胸が熱くなった。
「紫乃、喜んでくれ! 東京に戻れることになったんだ」
彼の転勤から3年。
この言葉を聞く瞬間を、何度夢に見たことだろう。
「今度の総選挙に、東京から立候補することが決まったんだ。
紫乃、君にはこの3年間、本当に寂しい想いをさせたよな。でもまた一緒に暮らせるんだよ。
……あれ、紫乃? 聞いてる? おーい」
電話の向こうからとぼけた声で何度も名前を呼ばれたけれど、返事はできなかった。
大きすぎる喜びが身を震わせて、涙がぽろぽろとこぼれるだけだった。