【短】愛のひかり
3年分の空白を埋めるように抱き合ったあと、彼はなつかしい仕草で私の髪を撫でながら言った。
「東京に戻れると知ったとき、夢を見ているようで信じられなかったんだ。
でも今は、昨日まで紫乃と離れて暮らしていたことの方が、ずっと信じられないよ」
まったく同じことを私も思っていた。
どうして昨日まで私たちは、別々の場所で生きていられたのだろう、と。
恋も愛も知らなかった頃から共に生き、一途に慕い、信頼し、身を寄せ合ってきた人。
私は、私という人間を彼の中に見てきたのだ。
ふたりでひとつ。
夫婦になる前からずっとそうだった。
かけがえのない人の胸に耳を当て、心臓の音を聞く。
彼がここにいる。
それは、私のちっぽけな胸ではおさまりきらないほどの幸福だった。
いっそう強く私を抱きしめ、彼はつぶやいた。
「君がいない神戸の日々は本当に辛かったよ」
私も。
私もよ、光。
もう二度と離れたくはない。
「オレ、神戸では毎日、紫乃のことばかり考えていたよ」
私に恋というものを教えてくれた光。
愛することの喜びも、
切なさも――
「だから……オレは寂しさに耐え切れなくて、ある女性と関係を持ってしまったんだ」
「え?」
「彼女のお腹には今、オレの子どもがいる」
――そして、絶望さえも。