【短】愛のひかり

まさかこんなことが起きるなんて、考えてもなかった。


本来なら同じ孤独を味わうはずの3年間が、私と彼ではこんなにも違うものだったなんて。


「その人、オレが神戸でお世話になった人の娘で、明菜さんっていうんだ」


女性の名前を彼が口にしたとき、私はその声色から、確かな愛情と尊敬の念を感じ取った。


これまでの戯れとは違う。
特別な人なのだ。

言われなくても痛感する。


「その方は……今も神戸にいるの?」


「ああ。実家で育てるつもりらしい。……君には納得のいかない話だろうけど」


そこまで言って言葉を切り、目をふせる彼。


こんな風に口ごもる姿は見たことがなかった。


恐ろしいことを聞かされる予感に、私の鼓動は速さを増した。



「できればオレは、その子を認知したいと思ってるんだ」
 


認知――。


もうそんなところまで話が進んでいたなんて。


彼の腕に抱かれて聞くには、あまりにも残酷すぎる話だ。



「紫乃……」


「やめて! もう聞きたくない」
 


ベッドから逃げるように降りて、服を着た。


体が震えてうまく袖が通らない。


乱れた髪を整えることもせずに玄関を出る。


扉を開けると強い風が吹き込み、目にしみた。



後ろから彼の声が響いていた。


「紫乃! どこに行くんだよ!」


本当に……私はどこに行くつもりなのだろう。



< 32 / 60 >

この作品をシェア

pagetop