【短】愛のひかり
家を飛び出して、あてもなく走って。
ゴールが見えないのに走ることが、こんなにも苦しいなんて知らなかった。
私はもしかして、目的地を失ってしまったのだろうか。
彼だけを頼りに今日まで頑張ってきたのに。
やっと会えたのに。
幸せだったのに。
私には光だけなのに。
なのにどうして、彼も同じじゃないの?
“愛してるよ”
何度となく彼からもらった言葉。
それは嘘なんかじゃなく、彼が本当に私を愛してくれていることは、わかっている。
だけど、だったらなぜ彼はわかってくれないのだろう。
女というのは時として、愛されたいと思う以上に、選ばれたいと願う生き物だと。
今までの浮気はまだ耐えることができた。
彼の愛が一時だけ他の女性に注がれようとも、妻は私ひとりなのだという誇りが、なんとか支えてくれていた。
でもそんな誇りは粉々に砕け、今はどこにも見当たらない。
紙切れ一枚の約束よりも、もっと強い繋がりを持った女性が、他に現れてしまったのだから。
結局、いつまでたっても彼は私ひとりを選んではくれないんだ。
赤ちゃんさえも、私をお母さんに選んでくれなかった。
気づけば私は大通り沿いのブティックの前まで来ていた。
閉店後の薄暗いショーウインドーには、3体のマネキン。
男の人と女の人、そしてその真ん中にワンピースを着た小さな女の子のマネキンが立っている。
このお店の前を通るたび、いつか私も、と思っていたのに。
そんな夢はいつの間にか、他の人の手に渡っていた。