【短】愛のひかり
どれほど私が彼を愛していても、命という圧倒的な存在の前では意味がない。
ましてや独りきりで母親になろうとしている女性を、同じ女の私がどうして邪魔できるだろう。
選挙に当選した彼が多忙な毎日を送っている間にも、あの人のお腹では彼の子がすくすく育ってゆく。
大きなお腹をさすりながら、まだ見ぬ我が子に父親のことを語って聞かせる姿を想像すると、嫉妬よりも恐怖を感じた。
彼は子どもの話題には触れなかった。
けれどそれは、私に気を使ってのこと。
常に神戸からの電話を気にしたり、テレビに赤ちゃんが映ると釘付けになったり、
彼の本心は無意識のうちににじみ出ていた。
そしてとうとう訪れた、その日。
朝からソワソワと様子のおかしい彼に私は言った。
「電話してみれば? 今日は、予定日なんでしょう?」
私が出産予定日を知っていたことに、心底驚いた顔をする彼。
素直すぎる反応が少し悔しい。
「どうしてそれを……?」
彼の問いかけには答えず、私は無言で微笑んだ。
“どうして”?
そんなの、わかるでしょう?
あなたはさっきから携帯をチェックしてばかり。
朝食だってほとんど残したじゃない。
あなたの心は今、ここにないじゃない。
出産が迫っていることくらい、教えられなくても嫌でもわかるわ。
あふれそうなる言葉を飲み込み、私はテーブルの上の食器を黙々と片付ける。
そのとき、彼の携帯が鳴った。