【短】愛のひかり
「あ――」
新着メール、という文字を見て、彼は勢いよく立ち上がった。
椅子が派手な音を立てて倒れたことも気にせず、あわてて携帯を取る。
私は運びかけていた食器をテーブルに置き、その様子を見守った。
「………」
いつまでたっても何も言わず、一点を見つめたままの彼。
視線の先のメールには、どんなことが書いてあるのだろう。
「光。どうだった?」
「……の子」
「え?」
「女の子。元気な女の赤ちゃんだって。
たった今、無事に生まれたって」
へなへなと脱力し、彼はため息をついた。
そしてメールを開いたままの携帯を、無防備にテーブルの上に置いた。
『たった今、無事に赤ちゃんが生まれました。
3200gの元気な女の子です。
目元が光さんに似ている気がします。
母子共に元気なので安心してください』
思わず読んでしまったことを、即座に後悔した。
これは現実なんだ、と今さらながら痛感する。
本当に彼の子どもが生まれたんだ。
遠い神戸で。
私以外の人のお腹から。
震える喉を落ち着かせるように、私は唾を飲み込んだ。
「おめでとう……光。私も嬉しいわ」
「紫乃。ありがとう、本当に感謝してるよ」
喜びを噛み締めるその目尻には、今まで見たこともない優しい皺が浮かんでいる。
なぜ、私じゃなかったのだろう。
彼にこんな顔をさせてあげるのが、なぜ私ではなくあの人だったのか。