【短】愛のひかり
その頃から私は、彼に内緒で不妊治療に通い始めた。
通院は決して楽ではなく、精神的、体力的な負担は大きかった。
それでも彼の前で疲れた様子など見せたくはない。
光の妻として、周りに恥じることのない女でいたい。
2年、3年と月日は流れても、私はまだ彼の子どもを授かることができずにいた。
溜まった疲労は無意識のうちに、だけど確実に、私を追い詰めていった。
「――紫乃? 大丈夫か?」
いつの間にかソファで寝入っていたらしい。
温かい手に揺り起こされて目を開けると、心配そうな顔の彼がいた。
「あ……光。おかえりなさい」
「いくら呼んでも起きないからビックリしたよ。よっぽど疲れてたんだな」
ホッと息をつく彼に微笑み、体を起こす。
時計を見ると0時前だった。
こんな時間まで働いていた彼の方が、私よりずっと疲れているはずだ。
「平気よ。あなたに比べればたいしたことないわ」
私の言葉に彼は曖昧な笑みを浮かべた。
そしてソファの前に座って私と向き合い、両手を取った。
「本当は、不妊治療がしんどいんじゃないのか?」
「……知ってたの?」
「紫乃のことでオレが気づかないわけないだろ?」
いたわるような彼の瞳。
胸に痞えていたかたまりが急激に溶けて、弱音を吐いてしまいそうになる。