【短】愛のひかり
「ごめんな。オレがよそで子どもを作ったせいで、君にプレッシャーをかけてしまって。
なのに辛い気持ちを隠して頑張ってる君を見ると、胸が痛くなるんだよ」
「そんなこと……」
「なあ、紫乃」
彼の表情が、ふいに真剣になった。
「もし君さえよければ、明菜から娘を引き取ってこの家で育てないか?」
あまりにも突然すぎた提案。
すぐには頭がついていかない。
彼の瞳の真剣さだけが、痛いくらいに伝わってきた。
黙り込んだ私に、彼が続ける。
「実は彼女はあまり体が丈夫じゃなくてさ。娘を産んでからさらに病気がちになって、きっとひとりで育てることに不安を抱いていると思う。
その点、ここなら娘に充分なことをしてあげられるし、君も子どもを持つことができるだろう?」
「でも、そんな……明菜さんが許すわけないわ」
「子どもの幸せを一番に考えるのが親なんだよ。きっと彼女もわかってくれるさ」
幸せ――。
その言葉を噛み砕くように、私は何度も心の中で唱えてみた。
反芻すればするほど、わからなくなった。
私がどれだけ望んでも叶わなかった願い。
今年で3歳になるという、彼の血を分けた子ども。
その子にとっても、明菜さんにとっても、私にとっても、これが一番幸せなのだろうか。
少なくとも彼にとっては、娘の成長をそばで見守ることが何よりだろうけど。
「わかったわ」
深く息を吸ってうなずいた。
彼の子どもなら、私はきっと愛せる。
我が子と思うこともきっとできるはず。
そう何度も自分に言い聞かせながら。