【短】愛のひかり
≪4≫
うっすらと雲がかかる9月の日曜日。
彼は明菜さんを神戸から呼び寄せた。
子どもを引き取る日が、いよいよ来たのだ。
私が明菜さんを初めて見たのは、窓越しだった。
迎えに出た光に案内されマンションに向かって来るところを、リビングから密かに見下ろしていた。
あれが……
神戸で彼の心を奪い、彼の子を産み、嫉妬以上の恐怖を私に与えた唯一の人。
騒ぎ出す心を私は必死で抑える。
7階の窓から顔立ちまでは見えないけれど、気品ある女性だということは遠目にもわかる。
そして彼女と手をつなぎ連れられているのは、娘の千絵ちゃんだ。
「……はじめまして、千絵ちゃん」
窓ガラスに向かってつぶやいてみた。
これは、練習。
彼女たちを前にしても、淀みなく挨拶するための。
今まで彼は私に気を使ってか、子どもの名前をあまり口にしなかった。
だから私もずっと“あちらのお子さん”という言い方をしてきたけれど、今日からは“あちらの”じゃない。
いつの間にか、窓から3人の姿が見えなくなっていた。
と、気づいたと同時にインターホンが鳴った。
来た!
どうしよう。
ついに来たんだ。
落ち着かなきゃ。
震えが止まらない。
どうしたらいいの。
様々な言葉が飛び交う、混乱した頭。
玄関へと歩く足は自分のものじゃないみたいだ。
ドアノブを回し、そっと扉を開いた。
「こんにちは。明菜さん、千絵ちゃん」
ああ、よかった、笑顔が引きつらなかった。
声もきっと穏やかだったはず。
私は内心ホッとしながら、玄関の外にたたずむその人の顔を見る。
彼は明菜さんを神戸から呼び寄せた。
子どもを引き取る日が、いよいよ来たのだ。
私が明菜さんを初めて見たのは、窓越しだった。
迎えに出た光に案内されマンションに向かって来るところを、リビングから密かに見下ろしていた。
あれが……
神戸で彼の心を奪い、彼の子を産み、嫉妬以上の恐怖を私に与えた唯一の人。
騒ぎ出す心を私は必死で抑える。
7階の窓から顔立ちまでは見えないけれど、気品ある女性だということは遠目にもわかる。
そして彼女と手をつなぎ連れられているのは、娘の千絵ちゃんだ。
「……はじめまして、千絵ちゃん」
窓ガラスに向かってつぶやいてみた。
これは、練習。
彼女たちを前にしても、淀みなく挨拶するための。
今まで彼は私に気を使ってか、子どもの名前をあまり口にしなかった。
だから私もずっと“あちらのお子さん”という言い方をしてきたけれど、今日からは“あちらの”じゃない。
いつの間にか、窓から3人の姿が見えなくなっていた。
と、気づいたと同時にインターホンが鳴った。
来た!
どうしよう。
ついに来たんだ。
落ち着かなきゃ。
震えが止まらない。
どうしたらいいの。
様々な言葉が飛び交う、混乱した頭。
玄関へと歩く足は自分のものじゃないみたいだ。
ドアノブを回し、そっと扉を開いた。
「こんにちは。明菜さん、千絵ちゃん」
ああ、よかった、笑顔が引きつらなかった。
声もきっと穏やかだったはず。
私は内心ホッとしながら、玄関の外にたたずむその人の顔を見る。