【短】愛のひかり

「でも、私は今まで働いたことすらないのよ? それがいきなり自分の教室を持つなんて……」


「誰にだって“初めて”はあるんだから、大丈夫だって。
それに紫乃が努力を積んできたからこそ、今につながってるんだろ? そのことに自信持てよ」


するとやり取りを聞いていた千絵が、無邪気に口をはさんだ。


「千絵ねえ、ママのお料理大好きだよ!」

「おっ、そうか。パパもママの料理が大好きだぞ」

「一緒だね~!」
 

ふたりは顔を見合わせて笑っている。


私の作る料理が、こんな風に人の笑顔を誘うことがあるんだ。

それは嬉しい発見だった。


だけど私はまだ、一歩を踏み出す勇気が持てずにいた。

 



考えてみれば、私は今まで自分の主張を持たずに生きてきた気がする。


“彼に育ててもらった私”は、彼から愛されることだけを考えて生きてきたのだ。
 


だけど料理だけは、生まれて初めて自分が求めたもの。
 

先生の言葉を聞いたあの日から、私は時間さえあれば独立のことばかり考えている。


もっと自分のレシピを広め、たくさんの人に笑顔になってもらいたい。


だけどやっぱり、未知のことに挑戦するのは怖い。


いや、でも……。
 


シーソーのように揺れる気持ちは、少しずつだけど片方に傾きかけていた。



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