【短】愛のひかり
夕暮れ前のリビングで、私はオリジナルレシピを書き留めたノートを開く。
ぎっしりと書き込んた自分の文字から、楽しさや熱意が伝わってくる。
今日、彼が帰宅したらもう一度話し合おう。
前向きに話し合うんだ。
そう決意したとき、携帯の着信音が響いた。
「もしもし」
「あ、紫乃さん? 田中ですけど」
電話の相手は、同じ料理教室に通う主婦仲間だった。
だけど声の様子が少しおかしい。
「どうしたの?」
「あのね、ちょっと言いにくいんだけど、さっき旦那さんを見かけたのよ」
「光を?」
「ええ。それで……見た場所っていうのが不動産屋だったから、少し心配になって」
心臓が嫌な音をたてた。
光が、不動産屋に?
なぜ?
即座に連想したのは、6年前のスキャンダルだ。
彼は女性との密会の場所として、私に内緒で借りた別宅を使っていた。
週刊誌でそのことを知ったときには、絶望で足元が崩れそうになったのを覚えている。
まさか今になって同じ過ちを繰り返すつもりはないだろう。
そう信じたい。
信じたいのに。
不安がどうしようもなく私を飲み込んでいく。