【短】愛のひかり
目を丸くして彼が言った。


たぶん私も、同じような表情をしていたと思う。


無理もない。


政治家の秘書だったうちの父が、長年仕えていた“ミナモト先生”――

それが、彼のお父さんだったのだから。



「渡部さんの娘さんにこんな所で会うなんてビックリだな。
たしか、6年前だっけ……?」


渡部さんが事故で亡くなったのは、と彼は言いづらそうに付け足した。


その声は独特のいたわりの響きを持っていて、心地よかった。



「うん。あのときお母さんも一緒に亡くなっちゃったから、あたし、おばあちゃんに引き取られて栃木に来たの」


「じゃあ君はこれからもずっと、ここに住み続けるんだ?」


彼に問われ、少し考え込んだ。


「……わかんない。東京に戻りたい気もするけど、おばあちゃんの他に親戚もいないし」


「それなら、オレんちに住めばいいじゃん」


「え?」


当然、冗談だと思った。


顔を見てみると彼は笑っていて、やっぱり本気には思えない。



「来年は受験だろ? 都内の高校を受ければいいよ」



あっけに取られる私をよそに、簡単にそんなことを言う。


彼にとって世の中のあらゆることは、私が思っている以上にたやすいのだろうか。




不思議な人、と思った。


こんな人、今まで見たことがない。



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