【短】愛のひかり

千絵を背負う彼の後ろ姿を見ながら、私は無言で歩いた。


ふたりの背中がやけに遠く感じた。



「あ、神社」
 

ふと足を止める彼。


視線の先には小ぢんまりとした鳥居があり、その先の闇にうっすらと社殿が見える。


「こんな所に神社があったなんて知らなかったな。
ちょっと入ってみようか」

「え、今から?」

「今年は初詣、まだだろ」
 

何歳になっても好奇心の旺盛な彼は、迷うことなく鳥居をくぐっていく。


私も後に続いて入ると、小石を敷き詰めた境内にうっすらと灯りがともり、神聖な空気が漂っていた。
 


私たちの他には誰もいない。


おみくじや絵馬など、お正月らしいものがいくつもあった。


「……何してるの?」
 

彼の背中で千絵が目を覚ました。


「あ、起きちゃった? 寒くない?」

「うん。ここどこ?」

「神社よ。初詣に来てるの」
 

寝ぼけ眼をこすり、あたりを見回している千絵。


普段見慣れない建物に興味を示したらしく、自分から彼の背中を降りた。


「千絵、ママと一緒にお参りしようか」

「うん!」


拝殿まで行くと、千絵は私の見様見まねでパンパンと手のひらを叩いた。


見ているこっちの胸が甘くなるような、愛らしい仕草だ。


「次は、目を閉じてお願い事をするの。こうして今年一年の幸せを願うのよ」

「うん。わかった!」
 

可愛い、無邪気な千絵。


その幼い心で自分の境遇をどれだけ理解しているのだろう……。


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