【短】愛のひかり
しばらくしても、千絵は目を閉じたままずっと手を合わせていた。
きっとお願い事がたくさんありすぎて、決められないんだ。
そう思っていると、千絵は急に腕を下ろした。
「やっぱりいい。お願い事ないや」
「どうして?」
澄んだ瞳が私を見上げて言った。
「だって千絵には、パパもママもいるもん」
一点の曇りもない純粋な笑顔。
胸の奥から、熱いものが湧き上がるのがわかった。
気づけば私はその場にしゃがみこみ、小さな娘の体を抱きしめていた。
「ママ?」
腕の間から覗きこむ信頼しきったその瞳は、いつかの私と似ている。
それはとても……幸せそうな瞳。
なぜ、私はこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。
「ママも、千絵やパパがいるから充分だよ」
微笑む私の肩に、彼の手がそっと降りてきた。
「紫乃。ごめんな……オレ、千絵の言葉を聞いてやっと気づくなんて遅すぎるかもしれないけど」
「光……?」
「オレや千絵が今こんなに幸せなのは、やっぱり君のおかげなんだよ。
今までたくさん傷つけたのに、ずっとオレを見捨てないでいてくれてありがとう」
いっきにこみあげる涙で、視界がにじんだ。
彼の表情が、よく見えない。
だけど声は出会ったときのように優しくて――
「オレのそばにいてくれて、本当にありがとう」
温かい腕の中で涙がこぼれた。