【短】愛のひかり
よしよし、と髪をなでる手が温かかった。


素直な言葉が、自然にこぼれた。



「来てくれて……ありがとう」


「こんどは君が東京に来る番だよ」


「え?」


「前も言っただろ? オレんちで住もうって。
そうすれば東京の学校に通えるし、寂しい想いも少しは和らぐよ」





彼の言葉は冗談ではなかった。


あっという間にお父さんを説得し、さらには都内の高校を受験する手続きまで済ませてくれた。



「何も心配いらないよ。うちの父さんも、渡部の娘なら大歓迎だって言ってる」
 


あれよあれよという間に受験に合格し、東京の源家に引っ越した日、彼は、私にこう言った。



「これからはここが自分の家だと思えばいい。
紫乃の居場所は、ちゃんとここにあるんだからな」
 


“居場所”……。


他人の口から聞いて初めて、自分がそれを渇望していたことを知った。

 


歓迎会をしてもらったその夜のことは、今でも特別な思い出として残っている。


シェフを自宅に呼んで作らせたというコース料理は素晴らしくて、世の中にはこんなおいしい食べ物があるのかと驚いた。
 

彼の父、桐生さんはとても温かく私を迎えてくれた。



「うちはこの通り、妻が療養のため長野に行って、いないからね。
男だけで暮らしていて寂しかったんだ」
 


だから君が家に来て嬉しいと、ワインで赤くなった顔をほころばせ、言ってくれた。


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