【短】愛のひかり
「お兄ちゃん」
いつの間にか、私は自然と彼をそう呼ぶようになっていた。
「どうした? 紫乃」
「ちゃんとリボンが結べないの」
高校入学の日、初めて袖を通したセーラー服のリボンがうまく結べなかった私。
彼は出来の悪い生徒を可愛がるような笑顔で、私を見下ろした。
「貸してごらん」
彼のしなやかな指の間で布が回転すると、あっという間にきれいな結び目が仕上がった。
「お兄ちゃん、すごい」
「紫乃ももうちょっと、いろんなことができるようにならなきゃな。高校生になったんだから」
「はぁい」
「オレが、いろいろ教えてあげるよ」
それはほとんど、あの頃の彼の口癖だったと思う。
彼から教え込まれたもの、与えられたものを、数えあげればきりがない。
彼なしで生きてきたそれまでの自分が別の人間に思えてしまうほど、
私は彼に染まっていった。