【短】愛のひかり
彼との思い出をひとつひとつ取り出しては、並べていく。
あまりにも幼く、何も知らなかった私を。
彼のそばにいるということがどういう意味を持つのか
まだ私は考えたこともなかった。
「紫乃。ちゃんと髪を乾かさなきゃ、風邪ひくよ」
そう言ってドライヤーを構える彼。
「せっかくきれいな髪なんだから、ちゃんと手入れしなきゃダメだろ」
私以上に、私の髪や肌や、仕草までも気にした彼。
「まったく。いつまでも子どもじゃないんだからな」
早く大人になれと言うくせに、誰よりも私を甘やかし慈しんだ彼。
あの頃光はもう大学生になり、サークル活動や飲み会で外泊が増えていたけれど
家で過ごす夜のほとんどを私のために使ってくれた。
彼が好きだと言うから伸ばした長い髪を、乾かしてもらいながら、私は高校での出来事をよく話した。
美化委員に選ばれたとか、作文コンクールに入賞したとか
そういう話題は特に彼を喜ばせていたと思う。
彼が家にいる日は、必ずひとつの部屋で布団を並べて眠った。
充分乾かしてもらったはずの髪は、枕に擦れるとまだ少し湿っていて、
「風邪ひくなよ」
と笑う顔を見るのが、とても好きだった。