coconut
私はもう耕輔の合鍵を持つ
資格も権利もないから
バーテンダーのひとに渡した。

いつかこの場所に耕輔も来る。

例えば連絡がついても…
あのバーに置いてきたと言えば
それで足りることになるし、

ここのバーテンダーの男性は
何故だか信頼できる男性だった。

耕輔に逢いたいけど、
逢わない方がいいと思っていたし
何より耕輔は私に逢いたくない
と、思う。

理由は何も聞かなかったけれど
きっと新しい彼女ができたんだ。

私より素敵で、私より…私より。

…耕輔の合鍵をバーテンダーの男性に
渡したら、心が軽くなった。

昔読んだ、梶井基次郎の「檸檬」を
丸善の本屋の本に置いたみたいな
心がふっと軽くなった。

もう、耕輔と逢わなきゃいけない
理由は一つもなくなった。

耕輔は私に…
こうしてほしかったんでしょ?
< 7 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop