鉄の薔薇姫
「レンカ、おまえもすぐだ。近衛からお呼びがかかる」


「いえ、俺は」


近衛隊になど行く気はなかった。
叶うならいつまででも彼女の傍らにいたい。
レンカの気持ちをよそに、シアは話を進める。


「来月には出兵だ。シナシに動きがあるらしい。おまえにとっては初陣だな。良い働きを期待している」


「はっ」


そう言われてしまえば、レンカには他に返す言葉がない。
短く承知を告げると、シアがレンカの手から空いたグラスを取り上げた。


「さあ、もう戻れ。明日は陣形練習と格闘訓練だ。今日の倍はきついぞ」


「隊長」


レンカは立ち上がらずに右手をベッドに沈ませた。

シアの黒曜石に似た瞳を覗き込む。
ここからは、対等に振舞ってもいい時間だ。
彼女の許してくれるわずかな分だけ。

< 16 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop