鉄の薔薇姫
レンカ自身、幼少より強いられた道に不満を感じたことはなかった。

父は存分に学ばせてくれたし、剣も馬も修練は楽しかった。

もとより、素直で明朗な気質である。
父が望み、自分も家族も不自由なく暮らせるなら、兵士は目指す価値があると思っていた。

後はせいぜい、安楽なポジションで将校の端くれにでもなれればいい。


しかし、新兵として、第一遊撃隊に従軍したとき、レンカの価値観はすべて変わってしまった。


鉄の薔薇姫・シア・ラークスと出会ってしまったからだ。


入隊して初めて会った彼女は、だいぶ小柄で噂ほどの美貌ではなかった。

世に聞く鉄の薔薇姫は、女神のごとき超絶美女だという。
レンカも金髪碧眼、スタイル抜群、さぞ妖艶な女が出てくるだろうと思っていた。

しかし、実際のシアは違った。
黒い髪と黒曜石色の瞳を持ち、少年のような身体付きをした小さな女だった。

確かに整った容貌をしているが、鋭すぎる眼光の印象ばかりが目立つ。

無愛想で滅多に笑わないことが、迫力に拍車をかける。
< 19 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop