鉄の薔薇姫
レンカはそこから先の言葉がなかった。

愛しい女に対する恋情、劣情。
強い者に対する嫉妬。

それらは等しく自らの中にもあるように思われた。

負けたくない、
愛してる、
征服したい。

そしてスルトの気持ちも、自分の想いも叶わないという点で同一なのだ。


「レンカ?」


沈鬱な表情で黙り込むレンカをシアが見上げる。

覗き込むようにするので顔と顔の距離がぐっと近づいた。


「レンカ、一応言っておくが、私は誰とでも寝るわけじゃないぞ」


「は?」


「私は安易におまえを選んだかもしれない。でも、関係を持つ人間はひとりだけだ。迫られたからといって、おまえ以外とは寝ない」


レンカは呆気にとられてシアを見つめた。
真面目な瞳のシアは、レンカの懊悩を別な意味に捉えているようだ。

しかし、その気遣いはレンカにとって嬉しいものだった。


「ありがとうございます。シア隊長」


レンカは微笑し、それを見てシアも心なしか安堵の表情を浮かべたかに見えた。


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