鉄の薔薇姫
1章
山岳行軍
翌朝、レンカは愛馬に騎乗し、駐屯地の中庭に集合した。
中庭には第一遊撃隊、総勢300名が甲冑に剣を佩いたフル装備で集まっている。
すぐにシアが姿を見せた。
全員が顎を上げ、馬上で背を伸ばした。立位では直立が敬礼の意味であるが、馬上ではこの姿勢が敬礼となる。
「全員そろっているな」
シアが低い声で言った。
ハダ帝国最強部隊のメンバーは、短くはっと声をそろえた。
ハダ帝国はリリ川河畔の肥沃な土壌に発展した大帝国だ。
首都ガラタシャを始め、いくつもの城塞都市から成り、特にリリ川河岸の都市は山海のルートに通じるため、古くから交通の要衝として役割を果たしてきた。
しかし、恵まれた土地をめぐって、近隣諸国と長い抗争を繰り広げてきたのも事実だ。
ハダ帝国における軍備の重要性が高いのはそうした理由で、現在、前線部隊として歩兵5万、騎馬兵2万が常時練兵され、出撃を待っている。