鉄の薔薇姫
あなたが好きだから
シナシ軍が動き出した報が駐屯地にもたらされ、ハダ軍は俄かに活気付いた。
即座に、新設の海兵軍と戦艦を内海に、大多数の歩兵、騎馬兵を陸上港湾部に集結させ迎撃体制が整えられた。
裏では密かに、ウナイ山に向けて遊撃隊を始めとする騎馬兵の出撃準備が始まる。
出兵を明後日に控えたその夜、レンカはシアの私室に呼ばれていた。
戦況が膠着すれば決着まで半年・一年とかかるかもしれない。
今日の逢瀬を欠かせば、しばし二人で会う時間はなくなる。
また、戦の常として、二人とも無事で再び相まみえることができるかはわからない。
特に、レンカにとってはこの戦が初陣だ。
レンカは少し前にリルアムの要請を断った。
やはり、自分のいるべき場所は彼女の近く。
生きるも死ぬもシアとともにしたい。
シアは、海兵軍へ兵士の引き抜きがあったことは知っているが、レンカが呼ばれていたことは知らない。
今日この部屋にきて、レンカには思うところがあった。
戸口に立ち尽くし、下を向き動かないレンカ。
その態度をシアは訝しそうに見ている。
「こっちへこい、レンカ」
レンカは黙っている。
言うべき言葉があるが、音声にするのは勇気がいった。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。