鉄の薔薇姫
「思いのほか、くだらないことを気にするやつだな」


「すみません」


「リルアムは貴族だ」


レンカはシアの口調の変化を感じた。

意気を欠いた口調は、いつもの上官のものではない。


「ユース家だぞ。祖父は先帝の弟。あいつは嫡男だ。しかるべき令嬢を妻にもらい、子を成さねばならない。
実力から、今でこそ前線にいるが、いずれは隊本部に入り、帝国軍の指揮系統を担うだろう。私たちとは根本的に違う」


「あなたなら奥方に相応しい。鉄の薔薇姫は軍人の妻として立派な称号になります」


シアがふっと笑った。

初めて見る表情だったが、それが自嘲の笑みとわかるのはすぐだった。


「言い忘れたがな。私は石女(うまずめ)だ。子が望めない以上、誰の奥方も勤まらんさ」


レンカは言葉を無くしてシアを見つめた。
シアは薄く微笑んでいる。




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