鉄の薔薇姫
「十四の時、故郷の医者に言われた。私に月のものがこないのは身体が男に近いからだそうだ。
両親は外聞が悪いと私から羊を追うことを取り上げ、地下室に幽閉したよ。私は逃げ出し、首都ガラタシャの底辺に身を落とした。
拾ってくれたのがリルアムだ」


月明かりが大きな窓から床の絨毯に落ちていた。
シアの表情は逆光なのに、はっきり見える。
無表情な面。
感情を押し殺そうとしているからだ。


「リルアムは私の貧しい生まれも、卑しい経歴も知っている。妹のように親愛を示すのはヤツの憐憫だ」


「いえ、リルアム統括はシア隊長を大事に想っています」


シアはその言葉には答えなかった。
それだけでレンカにはわかってしまった。

きっと、二人の間には出会ってから今まで様々なことがあったのだろう。
互いに想いが重なった時とてあったかもしれない。

しかし、シアはとうに気持ちを叶えようとは思っていない。

シアが言った。


「ともかく、私は誰と添うこともないし、誰の気持ちも受け入れられない。それはおまえでもだ、レンカ」


レンカははっと目を見開いた。
それは初めての正確な拒絶だった。

やはり、彼女はちゃんと気付いていたのだ。
そして優しさゆえに、身代わりでもいいというレンカの卑屈な期待を粉砕してくれた。


「今日はもうやめておこう。下がっていい」

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