鉄の薔薇姫
シアは静かな声音で言い、レンカに背を向けた。
月光が彼女の髪を青く透かす。


レンカの胸はぐちゃぐちゃだった。

こんな想い、やはり封じておくべきだった。

筋違いな気遣いまでして、何様のつもりだ。
彼女と愛する男の過去にもぐりこむことなどできやしないのに。

そもそも、彼女は俺のことなど眼中にはないというのに。


(俺は大馬鹿だ)


レンカは下がるはずだった足を、大きく一歩踏み出した。

気配に振り向くシアを、力いっぱい抱き締めた。


シアは驚くでもなく言う。


「下がれと言ったぞ」


「いやです」


「上官命令を拒否するとは、懲罰ものだな」


「あなたに……」


レンカは吐き出すように言った。


「あなたに触れる権利だけは放棄しません」


シアの身体を抱え、ベッドに引き倒す。
覆い被さって唇を重ねる。

いつ鳩尾に拳がめり込んでもおかしくない。

しかし、シアはレンカの要求を拒否せず、反対に腕を伸ばすとレンカの首に巻き付けた。

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