鉄の薔薇姫
さよならの決意
無事に崖を降りられたのは、馬の足腰の強さと、賢さのおかげだ。
馬は藪を斜めに駆け、自然と安全な迂回路を探ってくれた。
レンカが降り立ったのは沢だ。
幅は人の背丈ほどで、豊かに水が流れている。
リリ川に注ぐ支流だ。
敵兵の亡骸があちこちに横たわっているが、シアの姿はない。
流されたかもしれない。
レンカは砂利の川原を下流に向かって馬を進めた。
やや下流にシアの葦毛馬が水を飲んでいるのを発見した。
さすが、軍馬である。
馬は擦り傷がある程度でしゃんとしている。
レンカは馬を引き、さらに進んだ。
半刻ほど行くと、川原の大岩に身を投げ出した見慣れた隊服と黒髪が見えた。
シアだ。
「シア隊長ッ!」
レンカは駆け寄る。
シアがその声に目をゆっくり開き、顔を巡らせた。
「レンカか?」
「はい!お怪我は?」
「足を傷めたようだ。沢から上がるのに難儀したが、まあ無事だな」