月の絆~最初で最後の運命のあなた~
第一章 動き出した歯車


[一]


 夜の風が優しく頬を撫でていく。


 足を投げ出し、眼下に広がる車のヘッドライトが織り成すイルミネーションを眺めながら、彼女は呑気にも口笛を吹いている。


 彼女が座っているのは、高層マンションの屋上だ。


 誰もが震え上がる高さであるにも関わらず、彼女はプールに足だけを入れて水遊びをしているかのように、フェンスの外側でリラックスしている。


 ここから落ちればどうなるか、分からない歳ではない。


 最も汚い終わりが待っているだろう。


 もしかしたら、全く知らない第三者を巻き込むかもしれない。


 だが、その全てが彼女にとってはどうでも良いことだった。


 もう疲れたのだ。


 気にする事も、考える事も、生きる事も。


 極端な考え方かもしれないが、息をする事すら、彼女は億劫になっていた。


 時刻は午前2時。


 目の前の、まん丸に光り輝く満月が、スポットライトのように彼女だけを照らしている。


 両手を広げ、目を閉じた。風の音しか聞こえない。


 あとは、体の力を抜けば楽になれる。


 一度、軽く最後の呼吸をして、彼女は体を前に倒した。


「…………」


 一瞬の激痛は、いつ襲ってくるのだろう。



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